わきが(ワキガ)の医学

● わきが概論

ワキには特有の臭いの元となるアポクリン腺と、単なる汗を出すエクリン腺という二種類の腺があります。 アポクリン腺自体は、ワキの下、乳輪、陰部、など存在は限局し、その汗の中に脂肪・脂肪酸・アンモニア・鉄分・蛍光物質など、臭いの元となる物質が分泌されています。 エクリン腺は全身に存在し、その汗の成分は大まかには99%の水分と残り1%は塩分になります。 アポクリン腺の汗の性状は粘り気のある乳白色の液体で、この成分が細菌などによって分解されると臭いが発生しますが、この臭いが俗に言う「ワキガ臭」なのです。 多汗症の場合、アポクリン腺も含め、とにかく汗の分泌が多い症状なのですが、主にエクリン腺分泌の汗からの発症と考えた方が良いようです。これはワキの下だけではなく顔や手足も同様です。ただワキは身体と腕が閉じた状態が多くため汗をかき易いところであり、ワキの下がジトッと濡れる、汗が流れる、服に汗染みが出来るということになるのです。

● わきが多汗症の自己診断

1、 家族にワキガの人がいる。(アポクリン腺の数や大きさは、遺伝性があります。両親のどちらかがワキガ体質だと 子供もワキガ体質になる可能性が高いと言われています。 2、 人より毛深い。(アポクリン腺と皮脂腺の分泌液は毛穴を通って皮膚の表面に出るため、ワキなどの毛が多い人は これらの腺の数も多いのです。) 3、 ワキ下に黄色い汗染みができる。(アポクリン腺からの分泌液には脂肪・鉄分・色素などか含まれており、汗染みが 出来やすい人はアポクリン腺の数や分泌量が多いので黄色い汗染みの原因となるのです。) 4、 耳垢が湿っている。(耳の中にも多くアポクリン腺は分布しています。耳垢が湿っているということは、アポクリン腺の 分泌が多いということになります。) これらの項目の中で思い当たることがある場合、ワキガ多汗症の可能性があると言えるでしょう。 当てはまる項目が多ければ多いほど可能性は高いと言えます。

● [一般的わきが多汗症の手術療法と最近のBOTOX治療]

(切除法) この方法は腋毛の生えている部分の皮膚を大きく切り取る方法です。古典的で近年はあまり行なわれません。 この方法は、あまり広範囲は難しくワキガの原因となるアポクリン腺のある部分を全部切り取ることは困難です。結局中央部だけを切除することになることが多く、切り取った傷の周りに腋毛や汗腺が残るなど治療効果としては不完全となりやすいのが欠点です。また大きく皮膚を切り取り無理して縫い縮めるわけですから、傷痕も大きく皮膚のつっぱり、腕が挙げ難くなる等、後遺症が残ることがあります。切除法の合併症を補うために皮膚をZ型やW型に切り縫合する方法もアレンジされていますが、いずれにしても腋毛の生えている部分の皮膚をすべて切り取ることは困難で、症状だけ考えても不十分な効果しか得られないようです。

(反転剪除法) 剪除法は、皮膚を裏から削り込んで、汗腺を取り除くことにより臭いや多汗の症状を治そうという治療です。これはワキの下の脱毛効果もあります。手術はワキの下のシワに沿って切開します。アポクリン腺・皮脂腺・エクリン腺を徹底的に直視下に、指で皮膚を裏返しつつハサミで少しずつ切除していく方法です。徹底して行えばアポクリン腺、エクリン腺がほとんど取れるだけでなく、腋毛の再生もしてきません。しかし皮膚を均一の厚さで削り取るのは難しいので、皮膚の裏側が凹凸になると厚みのある部分に汗腺が残ってしまうことや、削りがギリギリを過ぎると皮膚に穴が開いてしまったり、皮膚が壊死してしまうこともあります。逆に削りが不十分だとワキガの臭いや汗がキチンと取れず不確実になりやすいため熟練した技術が必要になるものです。この方法は手術時間は最低2時間は掛けて、腋毛の生えている周囲の部分までしっかり行うことがポイントと言えます。ただ この方法は皮膚が美しさを保つ上での真皮をほとんど削いでしまうために傷の長さだけでなく見た目の質感も悪くなってしまいます。

(吸引法) もともとは脂肪吸引からヒントを得て吸引器にストローのような金属の棒(カニューレ)を取り付け、この器械を使い、ワキの下のアポクリン汗腺を取り除こうとして開発された方法です。しかしワキガのアポクリン腺は真皮とよばれる硬い皮膚の中にありますのでこの器械では完全に取ることは出来ないため、再発が多く腋毛も残ってしまいます。皮膚の切開も数mmと小さく手術後の回復が早いのが特徴ですが、最近は評判が良くありません。

(皮下組織削除法) ローラーとカミソリの刃のようなものがついた器具で皮膚を裏から薄く削る方法です。2cm程の切開で皮膚を紙のようにペラペラに極薄に削ることも出来るため、アポクリン腺だけではなくエクリン腺もほぼ完全に取ることが可能で、術後の外観はともかく、汗腺を取ることだけには非常に良い手術方法です。しかし術後の厳密な自己管理が必要となり、管理不足だとワキの皮膚が壊死してしまうこともあります。皮膚を極薄に削るため熟練した技術も必要となります。技術がなくこの方法を用いた場合、効果が悪かったり皮膚に刃による縦の裂き傷が付いてしまうこともあります。技術が良く、完璧に行えた場合でも、この方法は皮膚が美しさを保つ上での真皮の実質組織をほとんど削いでしまうために見た目の質感が老人の皮膚のように悪くなってしまいますし、ダブルタイオーバー固定という強力な締め付けで太い糸の痕が多数残ってしまいがちなのは欠点です。外観を全く気にされず汗腺は徹底的に取って欲しい人向きでしょう。

(ボトックスによる多汗症の治療) ワキガ・多汗症であっても手術は避けたいと考える人には、ボトックス注射による治療法が近年は行われています。ボトックスは交感神経線維をブロックすることにより汗腺への発汗指令を止める働きをしますので、汗腺そのものが減るわけではありません。この神経ブロックの効果が薄れると徐々に以前と同様に汗が出てきます。効果は個人差もありますが、投薬の量が多いほど長続きすることは医学文献上も確認されています。一般的には効果は、約4〜8ヶ月位なので定期的に注射を行うことが必要です。